卓話「心と呼吸の相関関係」
「心と呼吸の相関関係」
大阪大学 名誉教授
医博 大山良徳氏
最近運動の重要性が叫ばれるようになりました。運動の質を分類すると
(1)無酸素運動(筋トレ)
(2)有酸素運動(ウォーキング・ランニング・持久力を高める)
(3)中間的運動としてストレッチ運動(柔軟性・筋の伸縮力と関節の可動域を高める)
などに分けられます。
運動により酸素を多く消費すると、筋肉は硬くなり長期化すれば老化を早めてしまいます。しかし一方で再生も可能です。運動には骨格筋(横紋筋)と骨・関節が関与し、そのエネルギーの発現には酸素が重要な働きを担っています。
これらの運動に関与する筋組織は機能的に3種類、すなわち赤筋(遅筋)・白筋(速筋)・中間筋に分類されています。筋トレなどトレーニングによりピンク色に変わる筋が中間筋です。しかし赤筋や白筋に変わるのではなく、トレーニングの内容により赤筋や白筋どちらか一方の機能性を一時的に発揮できるようになります。たとえば記録が向上するなどがそれです。
また運動では酸素摂取と体内に産生されたCO2を排出させることによって、活動エネルギーをえて生命を維持しています。これに大きく関与しているのが呼吸です。呼すなわち息を吐くことによって人生が始まり、吐けなくなった状態が死を意味します。生のあかしとして何よりも大切な生理現象は呼吸です。呼は吐く、胸筋や肋間筋、腹横筋を緩めて息を出す、すなわちリラックス現象です。リラックスすると、自律神経系の副交感神経が活性化して心がゆるみます。これに対し吸うは、胸筋や肋間筋を緊張させ肺をふくらませます。このとき緊張をもたらす交感神経が大きく関与します。
このように呼吸は自律神経系を絶えず調節しています。興奮、リラックスによってホメオスタシス(恒常性維持機能)が保たれています。よって呼吸の状態が変わればそれに応じて心は躁になったり、うつになったり変動します。心の状態の変化は呼吸の状態に影響を受けています。
一方、心にゆとりが生じると人間は本来備えている自然治癒力も高まっていきます。つまり病気やからだの異常性をもとに戻す平常力がつき、身体をいつも同じレベル、同じ状態に維持しようとするホメオスタシスが高まることを意味しています。
ストレス対策の第1歩は、心を豊かにする正しい呼吸法を会得することです。このようにして自律神経を調節できれば、快眠へと導くこともできます。そこで僅かな自由時間を活用し自律神経を調整する呼吸運動の1つを紹介します。
<方法>
一気に鼻から息を吸い、ゆっくり長く長く口を細めて息を吐いていく。その割合は吸う(1)に対して、吐く(5)の長生き呼吸を行う。毎日3回就寝前に行えば有効です。
ぜひ実行してみて下さい。